同一行動を取るはずだったイギリス政府が議会での承認が得られず、シリアへの軍事行動を断念するに至って、今にも軍事行動に踏み出そうとしていたオバマ大統領は、突如、米議会の承認を求める方向に政策転換を発表した。国内外の支持が弱い軍事介入に、お墨付きを得る狙いだ。
米議会は現在休会中で9月9日に再開する予定であるので、行動開始はそれ以降となりそうである。大統領はあらゆる手を尽くして議会の承認を取ろうとしているようだが、共和党も民主党も内部の意見が分かれているため、採決の行くへははっきりしていない。
問題はシリア内戦において本当にサリンが使われ、それがアサド政権によるものであったかどうかという点である。テレビに映り出される映像を見る限り、神経ガスなどの化学兵器による殺傷行為が行われたのは確かのように思われるが、大事なのはそれが本当にアサド政権による行為かどうかという点である。
それが確かでない限り、アサド政権に対する懲罰的な攻撃という大義名分は消えてしまう。先週、オバマ政府が突如として軍事介入に踏み込む意向を明らかにした際、軍事行動の正当性を裏付けるために発表したのが、化学兵器の使用がアサド政権によって行われたものであることを示すとされる一つの証拠であった。
それは、アサド政権の高官が化学兵器を保管する軍部と交わしたとされる、通信の傍受記録であった。しかしこの通信の内容は未だ発表されておらず、どれほど確かなものかは不明のままである。一部の情報は、この受信記録はイスラエル政府筋から提供されたものであることを伝えている。
だとすると、偽造されたものである可能性は十分にあり得る。イスラエルの諜報機関・モサドが持っているテクノロジーを駆使すれば、にせの通信記録など容易に作れるはずである。また欧州の軍事専門家の間では、受信した会話は、シリア政府の高官と化学兵器保管担当者にカネを握らせて行ったやらせ行為である可能性も囁かれている。
また、ある欧州の知人は、化学兵器を使うことは「利少なく失うものが多い」自殺行為になるだけに、アサド大統領が命じる可能性は非常に小さいこと、また、神経ガスによる殺傷事件が起きた現場にいち早く足を運んだ調査団の一人は、ミサイルによる攻撃と言うより、その場で爆発に見せかけて神経ガスをまき散らした可能性の方が大きそうだ、と述べたことを伝えて来ている。
ということは、反政府軍の一部が欧米の支援を求めて行った行動の可能性が大きくなってくる。先の国連調査団に向けての発砲事件も同様である。当然、その裏にはイスラエルや米国の軍産複合体が手を回していることになる。再び、三たびの「だましの手口」の発動である。
いずれにしろ、国連の調査団が現地入りして、その実体を把握しようとしていた矢先、突如として軍事介入に踏み出すことを明らかにした米国政府の行動が、なんとも解せない行為であることは、前回のHPで記した通りである。
国連の調査団は31日、レバノンを経てオランダに到着しているので、2週間ほどすればその調査結果が明らかにされることと思われるが、オバマ大統領が9日以降の議会での審議の後、調査結果の発表を待たずに攻撃実行に踏み切るようなことになれば、世界中からの避難は免れそうにない。
思い出すのは、2003年の対イラク攻撃に際しての「大量破壊兵器所有」が確認されたとする軍事行動開始の理由である。証拠とされた通信傍受の記録や衛星写真情報が全て偽物であったことは、今や世界中の人々の知るところである。今回、同じ事が再び行われようとしている可能性が大きい。だからこそ、欧米の国民は今回のイギリス、フランス、米国の軍事介入に反対の声を上げているのだ。
オバマ大統領はこれまで、軍事介入は大規模な軍事行動や無制限の関与ではなく、限定的な行動を想定していると発表している。しかし、いったん関与が始まったらすぐに泥沼化する可能性は大である。米国がここ数十年間に行ってきたベトナム戦争から湾岸戦争、イラク、アフガン戦争などの軍事介入の結果を見れば、それは明々白々である。
確かな介入理由のないまま、世界大戦へに向かう危険性を秘めた軍事介入に踏み切ることは、ノーベル平和賞を受賞した人物の取るべき行動ではない。最近のオバマ大統領の顔を見ていると、アサド大統領やプーチン大統領の方が穏やかに見えてくるから不思議だ。彼らの内、誰が真実を語っているのだろうか? 我々は遠くないうちにそれを知ることになるだろうが、その時は地獄の蓋が開いた後で、時既に遅しとなりそうである。